中学受験 上位校でなくても進学する意味はある?

 

日経DUAL 4/20(木)     

中学受験 上位校でなくても進学する意味はある?

 

 

 みなさんは「中学受験」についてどんな考えをお持ちですか?
「難関大学に入れるなら、中学受験は不可欠」「高校受験がない中高一貫校で、10代の6年間をのびのびと過ごしてほしい」「上位校に行くなら分かるけれど、偏差値30~40台の私立中高一貫校に入れる意味はあるの?」「小学生の子どもに夜遅くまで塾通いをさせてかわいそう。公立でいいじゃない」など様々な考えがあると思います。少子化が進み、大学全入時代と言われる今、それでもなお首都圏を中心に、ある一定の中学受験者数が存在するのはなぜでしょう?
 第一志望に合格する子が全体の約3割という実態の中、中学受験は上位校狙いに限ったものでは決してありません。新連載「“偏差値50”の中学受験」では、それぞれ価値観や方針に合った選択肢で中学受験を目指す家庭に向けて、偏差値だけにとらわれない中学受験の魅力や役立つ情報をお届けしていきます。第1回は、長年中学受験をはじめとする日本の教育問題について研究をされている安田教育研究所代表の安田理さんに、中堅校以下の私立中高一貫校を受けるメリットや魅力などについて聞いてみました。


■中学受験に対する過酷なイメージ。上位校狙いなら分かるけれど・・・

 一般的に中学受験は、小学3年生の2月から大手進学塾に通い、そこから3年間かけて中学受験のための勉強をします。塾に通うようになると、宿題がたくさん出るし、授業の復習やテストの対策もしなければならず、長期休みも含め塾中心の毎日を送ることになります。4年生のうちは週2回ほどの塾通いも、6年生になるとほぼ毎日という状態になり、学年が上がるごとにハードになっていくのが、今の中学受験の実情です(詳しくは、『共働き中学受験基本のキ』の記事をご覧ください)。

 しかし、塾に通えば順調に成績が上がるという保証はなく、むしろ一度は壁にぶち当たり、苦戦する子が多いのも現状。努力が実り、上位校に合格できればいいけれど、中学受験で第一志望校に合格できる子というのは、全体の約3割と言われています。つまり、小学校生活の約半分を受験勉強に費やすにもかかわらず、多くの子が第二志望、第三志望の学校に進学することになるのです。そうした結果から考えると、中学受験のレールに乗るのは「割が合わないのでは?」と思ってしまうのも親心。

 にもかかわらず、今もなお首都圏では6人に1人が中学受験をしています。それは、なぜでしょう。中学受験に詳しい安田教育研究所の安田理さんに聞いてみました。

■“進学実績”よりも“情操教育”重視。偏差値では測れない私立中高一貫校の魅力

 安田さんはこう話します。



 「中学受験というと、大手進学塾で成績順にクラス分けをされ、ひたすら勉強して上位校を目指すというイメージを抱いている親御さんは多いと思います。しかし、ひとくちに中学受験といっても、偏差値70以上の最難関校から偏差値30台の学校までその学力には大きな幅があり、各校の特徴も異なります」

 「昨今、中学受験をさせる理由で最も多いのは、私立中高一貫校に通わせると、大学受験に有利であるという考えです。確かに、中高一貫校に行けば、高2の段階で高校課程に必要な勉強をすべて終わらせ、高3の1年間をかけて大学受験のための勉強に充てられるというメリットはあります。そういう考えを持つ家庭は、難関大学を目指すため、中学受験においても上位校を狙います。そのため塾の指導のもとに一生懸命勉強します。しかし、各校には定員があるので、どんなに頑張っても不合格になってしまう子が出てきてしまいます。そういう子は第二志望、第三志望校へと進学していくのです」

 「しかし、私立中高一貫校の魅力は上位校に限るわけではありません。また、進学に有利というだけでもありません。依然としてまだ進学実績が重視されていますが、私学の本当の魅力は各校が掲げる教育理念にあります」

 「例えばキリスト教の学校では、『困っている人を助ける』『世の中の役に立つ人間になる』『自然の恵みに感謝する』といった宗教思想が、すべての教育の土台になっています。授業で『聖書』の時間があったり、奉仕活動をしたりするなど、公立校や私立でも進学実績だけを追っているような学校にはない独自の教育を行っています」

 「昨今、多くの私立中高一貫校が、早朝学習や放課後の補習・講習など、学力向上に力を入れるあまりに、10代の多感な時期に自分のことや将来のことなどについてじっくり考える時間が持てなくなっています。しかし、キリスト教の特にプロテスタントの学校では毎日礼拝があり、そうした時間の中で、自分を見つめることができます。また、学校生活や家庭生活の中でつらいことや苦しいことにぶつかった時に、礼拝や『聖書』の時間で耳にした聖書の中の言葉に救われたり、信じる存在があることで精神面を強く持つことができたりもします。このように宗教校には宗教校の良さがあるのです」

 「また、近年は共学校の人気が顕著ですが、私立中高一貫校には、男子校、女子校といった性別分けによる別学があります。別学は性別による特徴を生かした教育を行います。ひと昔前は、女子校といえば“お嬢様学校”というイメージがありましたが、現在は女性の生き方も多様化し、実社会で活躍できる女性の育成に力を入れている学校もあります(共学・別学については、今後の記事で紹介していきます)」

 

 

■ネーティブスピーカーや海外研修の充実。グローバルを視野に入れるならやっぱり私学が強い

 


 私立中高一貫校の良さは他にもあります。公立志向の家庭にとって、私立の学校に通わせることは経済的な負担がかかるという懸念がありますが、そのぶん私学には恵まれた教育環境が整っています。

 「伝統校の施設の充実ぶりはやはり魅力的です。例えば、学習院女子中・高等科では、理科教室・実験室が8室、西洋画・日本画・工芸・書道・音楽の芸術科教室が7室、調理・被服の家庭科教室が5室といったように、教科ごとに充実した環境が揃っています。また、野球やサッカーなどの強豪校であれば、ナイター設備があったり、トレーニングルームがあったりと、時間や天候に左右されず、思いっきり練習ができる環境が整っています」

 「もちろん、すべての私立中高一貫校にこうした環境が整っているわけではありませんが、それでも公立の中学や高校と比べれば、施設面でははるかに恵まれた環境であることは間違いありません」

 設備の充実だけではありません。

 「近年、グローバル化が進み、異なる文化や歴史を持つ外国の人達と共存していくには、いろいろな価値観を理解することが求められています。その経験の場として、海外研修はとても有効です。近ごろは公立校でも、修学旅行で海外へ行ったり、夏休みに海外研修プログラムを設定したりしている学校もありますが、私立中高一貫校に比べるとまだまだ少数です」

 「私立中高一貫校では高校受験がないぶん、中2や中3の早い段階から海外研修に行けるというメリットがあります。また、一度だけでなく、6年の間に複数回行けるように、語学研修のみならず、ボランティア活動や理系プログラムなど多種多彩な海外研修を用意しているのも魅力です。家庭の事情によっては何度も行けない場合もありますが、そういうチャンスが多いという点も私立中高一貫校の良さだと思います」

 「また、昨今の英語教育では、4技能(読む・書く・聞く・話す)を伸ばすことに重点が置かれるようになってきていますが、公立校ではネーティブ教員が1人しかいないというケースが多く、実践的な英語を学ぶ機会が不足しています。一方、多くの私立中高一貫校ではネーティブ教員が多数いるので、英会話力を磨くことができます。グローバルコースを設定している学校では、担任は日本人教員、副担任はネーティブ教員というところもあり、日常的に英語でコミュニケーションをとることができます」

 こうした環境も私立中高一貫校の大きな強みと言っていいでしょう。

 

 

■「中学受験は普通の子にいちばん意味がある」

 一方で、必要に迫られて私立中高一貫校を選ぶ場合もあります。

 「例えば、住んでいる地域の公立中学が荒れているので心配というケースです。公立中学には公立中学ならではの良さがありますが、そのときに在籍している生徒によって、学校の雰囲気がガラリと変わってしまうという懸念があります。数年前までは落ち着いて好印象な学校と地域で評判だったのに、ここ最近はちょっと生徒の雰囲気が違う、ということもよくあります」

 先輩ママから『あの中学校ではいじめがある』『不登校の子が多い』などの噂を聞くと、そこに通わせるべきか躊躇してしまう家庭も多いようです。安田さんが集めた、中学受験に関する保護者の声が印象的です。


【ある保護者の声①】
「勉強しなくても頭のいい子こそ、正直中学受験なんてしなくても、どんな中学に行ったって、公立トップ校に入ってトップ大学に行けるんです。中学受験をした方がいいのは中堅の子。小学校高学年のときに首都圏模試で50以下だった子が公立に行けば、MARCHレベルの大学に入るのは難しくなります。でも、中堅の私立中高一貫校へ進学すれば可能性がある。中学受験は普通の子にとっていちばん意味があるんです」


 安田先生はこう話します。

 「この考えはあながち間違ってはいないと思います。ひとくちに公立校といっても色々な学校がありますが、全体的に見た場合、現在、公立校では受験のための指導は十分にできないという点は否定できません。
 昨今、私立中高一貫校にとって、進学実績を上げることは、少子化の下で生徒確保をするために欠かせない目標となっています。難関私立中高一貫校の生徒であれば、入学時の段階から高い学力があり、トップ大学を目指すことができますが、中堅以下の私立中高一貫校の場合は、6年間で生徒達の学力を伸ばすための様々な工夫をしています。そのため、補習や講習、受験指導などが充実しており、いわゆる“面倒見の良さ”を期待することができます」

 一方、中学受験をする家庭の中には、次のような考えを持つ親御さんもいるようです。


【ある保護者の声②】
「『鶏口となるも牛後となるなかれ』と言うことわざがありますが、集団の中では牛後になる可能性は、誰にでもあります。牛後になるよりは、鶏口となって楽しく過ごせる学校が良いですね。難関大学合格というストレートな価値観だけでは、感受性豊かな中高6年間を過ごすのはつらいですから。卒業しても同窓会にも行きたくないのではかわいそう。わが家は牛後になる可能性を意識して学校を選びました」


 安田先生はこう続けます。

 「中学受験は子どもがまだ小さい分、親の期待も大きく、また親が主体となって進めていくため、どうしても高望みしてしまう傾向があります。そのため、偏差値の高さで学校を選んでしまいがちです。しかし、頑張って難関校に合格できても、そこにはさらに学力の高い子たちがいます。難関校は成績が上の子ほど輝ける場所です。
 そのため、難関校にギリギリで合格した子は、入学時から厳しい現実が待っています。もちろんそこで大きく伸びる子もいますが、伸び悩んで劣等感が募ってしまう子も少なくありません。そんな思いを抱えながら大切な10代の6年間を過ごすよりは、少しランクを落としてでも、そこで輝ける学校生活を送る方が子どもにとっては幸せではないかと考える親御さんも多いのです。そのほうが子どもの自己肯定感が高まり、長い目でみると幸せな人生を送れるからです」

 このように、私立中高一貫校に進学する理由は多岐にわたるのです。

 

 

■中学受験をすると決めたら、何を基準に学校を選ぶべき?

 では、中学受験をすると決めたら、何を基準に学校選びをすればよいのでしょうか?
 現在、首都圏には約300の私立中高一貫校があります。その中には男子校、女子校、共学校があり、宗教校とそうでない学校があります。また、大学までエスカレーターで行ける付属校もあれば、大学付属校ではあるけれど外部進学が主流という学校もあります。

 偏差値でいえば、下は30台から上は70台までと幅広くあります。偏差値55以下の学校でも、放課後や長期休暇の補習や講習が充実していて、「予備校要らず」で進学実績を上げている「面倒見のいい」学校もあります。

 全国レベルの部活や、公立校にはない珍しい部活がある学校もあります。

 「様々な特性を持つたくさんの私立中高一貫校の中から、志望校を選ぶには頭を悩ませますが、まずはお子さんを主体に考えることです。お子さんがどんな特性を持ち、どんなことに興味を持っているのか。お子さんが楽しく通えるのはどんな学校なのか、じっくり考えてみてください」

 「そして、気になる学校があれば、学校説明会や公開授業に積極的に参加しましょう。その時にそこに通う生徒たちがどんな様子かをじっくり観察してみてください。そして、そこでお子さんが楽しそうに過ごしている姿がイメージできたら、その学校はお子さんに合った学校だと考える目安になるでしょう」

 中学受験に限らず、どの受験においても、世間では上位校に合格することが良いという風潮はあります。しかし、今は終身雇用神話が崩壊し、高学歴だからといって幸せな人生が一生保証される時代ではありません。世の中が今後さらにグローバル化していく中、「わが子をどう育てるか」という親の価値観が問われています。それをしっかり考えるのに、中学受験をするかしないかは大きな分岐点になっているのです。

 本連載では、「何が何でも上位校!」というご家庭に限らず、様々な価値観の中で各家庭に合った選択肢を見つける一助となる中学受験情報を取り上げていきます。次回は、多様化する中学入試について解説していきます。

 

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