中学受験には、お子さんの状況に応じた多様な扉が開かれています。
そのひとつが、「帰国子女」枠による受験。
国内の一般受験生とは異なる選抜方法で選考してもらえるため、
海外経験のあるお子さんにとっては、大きなメリットがあります。
「帰国子女を受け入れている学校には、どんなタイプがあるの?」
「英語は得意だけれど、日本語や学科試験が不安・・・・・・。」
「受験までの準備や流れを知っておきたい!」
今日は、そんな皆さんに、帰国子女枠の受験を実施している中学校のタイプや、受験資格・内容、当日までの大まかな流れや準備しておくべき事柄について、
くわしくお話ししたいと思います。
海外在住の子どもの数は、年々増加しています。
文部科学省の統計要覧によると、平成28年度の時点では、約5万7098人の海外在留小学生が確認されています。
そして現在、この帰国子女生のうちの約三割が、中学受験を経て私立の中学校に入学していると言われています。
その理由の一つが、授業内容。
海外生活が長ければ長いほど、お子さんには、外国語を初めとする海外経験者ならではの力が身に付いていく一方、国内にいれば自然に身についたはずの日本に関する基本的な知識(地名・歴史など)や語彙力は欠けてしまいがちです。
このようなお子さんに対し、ただでさえ様々な学習レベルの生徒が集まる公立中学校では、一人一人に万全なフォローを施すことは難しく、国語、社会の授業について行くのに苦労するお子さんが多いのです。
逆に、英語においては、公立中学校の内容では易し過ぎて物足りなかったという話や、せっかく身につけた英語力を発揮仕切れず、やがてその力が衰えてしまった、という話もよく耳にします。
※私立中学校では、英語の時間は帰国子女生のみというクラスを設けて授業を行う所も多くあります。
帰国子女ならではの弱点はしっかりフォローしつつ、能力は存分に活かしてくれる環境を考えたとき、受験という選択肢が生まれてくるのでしょう。
時代の要請もあり、中学校側としても、帰国子女生の受け入れ体勢は、ますます充実してきています。
まず、帰国子女枠の受験を実施している中学校には、どんなタイプがあるか、大まかに3つに分けて見てみましょう。
~日本の社会・学校生活に適応することを目指す~
基本的に、特別な扱いはせず、あえて一般生と同様に授業を行う。
弱点となりがちな教科の補習を行う場合や、帰国子女生と一般生で分かれて授業を行う場合もある。
~帰国子女生ならではの語学力や海外経験を活かし、それを伸ばすことを目指す~
一般生とは別に帰国子女生枠を設け、そのような入試を実施する。
クラスごと一般生と区別する場合もあるが、全ての授業が別々とは限らない。
英語の授業時は帰国子女生のみのクラスを設けたり、弱点となりがちな科目の補習授業を行ったりする場合が多い。
~グローバル化を踏まえ、海外で活躍出来るような特性を伸ばすことを目指す~
帰国子女生を中核とした学校づくりを行っている。
講師はネイティブで、英語で議論する授業なども積極的に取り入れる。
海外の大学への進学や、将来海外での活躍を願う生徒に向く。
帰国子女枠の受験に必要な資格・条件は、学校によって様々です。
まず、多くの学校で基本的な条件とされている、2つの項目を確認しましょう。
多くの学校が、「海外在住2年以上」を条件としています。
1年以内~規定無しまで、帰国後の年数については様々です。
※在籍していた学校の種類を問う(日本人学校に通っていた場合は認めない)など、細かい規定がある学校もあるので、良く確認しましょう。
※ただし、各学校の担当者に直接相談を持ちかけたところ、受験が敵った!という話も耳にします。
学校によっては、ある程度柔軟な対応をしてくれる場合もあるので、規定の条件から多少外れていてもすぐに諦めず、まずは直接、受験相談窓口や担当者の方に尋ねてみることをおすすめします。
帰国子女枠の受験には、さまざまな選考方式があります。
学科試験は多くの場合、算数・国語の二科目、若しくは、算数・国語・理科・社会の四科目です。場合によっては面接や作文も課されます。
※一般の受験生と問題は同じでも、合格基準点は下げられる場合が殆どです。
1~3科目の筆記試験に加え、作文・面接が実施されることが多いです。
※作文の内容は、海外滞在先での行事やクラスメートとの思い出、印象に残った事、将来の夢を書かせるもの、文章を読んで考えを書かせるものなど、様々です。作文で苦労するお子さんが大変多いので、早めに対策しましょう。面接については、後ほど詳しくお話しします。
また、学校によっては
な場合もあります。
※受験科目・条件については、必ず各学校のHPなどで、最新情報をご確認ください。
※一部の中学校では、科目試験では無く、適性試験を採用しています。
また、英語以外の外国語受験が可能な学校もあります。海外滞在先が英語圏で無かった場合や、
科目試験は難しいと思われる場合も、様々な道が開かれているので、ぜひ探してみてください。
海外在住期間が長く、他教科に自信のない生徒さんにとっては、英語のみ・英語選択が可能な受験は特に魅力的ですね。
ただし、そこで問われる英語力は、学校によっては大学入試並みのものです。
他教科が不要・若しくは難易度が緩い分、英語力はきちんと問われるということを、心に留めておきましょう。
帰国子女枠の受験は、11月下旬から始まります。
首都圏の通常の入試は2月1日からなので、ずいぶん早いスタートです。
帰国子女枠の入試を先行して行う学校の場合、一般枠との併願も可能ですから、志望する中学校の受験日程はしっかりチェックしておきましょう。
帰国子女枠の受験を考えるようになったら、当日までどのように準備を進めていけば良いか、大まかな流れをご紹介します。
インターネットや、帰国子女受験生向けの学校案内本※を利用し、帰国子女枠の受験を実施している学校を調べてみましょう。
※『帰国子女のための学校便覧』(海外子女教育復興財団出版)が便利です。
気になる学校には資料請求を行い、受験資格などの疑問点は直接、受験相談窓口などに確認・相談してみましょう。
海外在住の方は、現地の日本人向けの塾でも受験情報を仕入れることが出来ます。大きな塾であれば、日本の中学校についての説明会を行っているところもありますので、是非問い合わせてみてください。
各中学校の受け入れ体勢、受験資格、科目、日程などを、よく確認しておきましょう。
通常の受験と同様、「共学が良い」「女子校・男子校が良い」「進学校が良い」「大学まである学校が良い」など、様々な視点から、よく話し合いましょう。
※この際、入試日程や偏差値と合わせ、共学なら何色、女子(男子)校なら何色、などと学校を分類して一覧表にしておくと、比較検討しやすくなります。
気になる学校がある程度絞れたら、(海外在住の場合は難しいかも知れませんが)、文化祭やイベントの日時を調べ、ぜひ一度足を運んでみてください。
また、平日であれば実際の授業を見学させてくれる学校もあり、設備や周りの環境に加え、普段の雰囲気や、先生・生徒の様子も分かります。
実際通うことになった場合の交通ルート、自宅から学校までの距離や時間(通いやすさ)も、しっかり確認しておきましょう。
受験に向けた学習の準備は何より重要です。
前述のように、一般の受験生と同時に先行される場合、学科試験の問題自体は一般の受験生と同じでも、合格基準点は下げられる場合が殆どです。応用問題も解けるに越したことはありませんが、
国語・・・漢字の読み書き・語句・文法などの基礎知識をきちんとおさえること。
算数・・・素早く正確な計算が出来、基礎的な文章題が解けるようにすること。
まずは、これらの基礎固めから始めましょう。
また、学科試験に向けた勉強はもちろんですが、
日本語での作文が課される場合、出来るだけ早めの演習・対策を行いましょう。
※国語の問題集、塾・プロ家庭教師などを活用しましょう。
※本番に向けて、時間を計って練習することも忘れずに。
※特に、自己紹介・海外経験など試験に頻出の内容については、何度も練習し、頭の中を整理しておきましょう。
※英語など、外国語の筆記試験・作文がある場合も同様です。
日本人向けの英検問題集・中学生向けの問題集も、基本の英文法やスペルの定着・作文演習に役立つので、ぜひ利用してください。
学校に拠っては、試験の一環として面接が行われます。
本人のみ・保護者同伴など形式は様々ですが、いずれにしろ、学科試験だけでは見ることの出来ない部分、つまり、以下のような部分を見ています。
面接では、第一印象が大切です。身だしなみ、挨拶・お辞儀などの立ち居振る舞いにも気を付けましょう。
※受験当日の服装や持ち物については、こちらもご参考ください。
中学受験の服装はどんな格好で行けばいい? https://www.e-juken.jp/junbi/post_224.html
受験は帰国生とその家族にとって、大きな悩みではないだろうか。「私立の中高一貫校に通いたい」「進学したい学校に帰国生枠はあるのだろうか」「そもそもどんな準備をすればいいのか」…。疑問や不安はつきない。
ならば専門家に聞くのが一番だろうということで、帰国生の受験対策、海外在住者向けの帰国入試・進学セミナー、さらに日本人学生の海外大学進学の指導、支援を行っているSAPIX 国際教育センターの赤嶺修一郎本部長に話を聞いた。
◆帰国生入試の定員は少ないが増加傾向
赤嶺氏は、SAPIX小学部で長年中学受験生の指導をしてきた講師経験者でもある。その赤嶺氏は、帰国生の中学受験について次のように語る。
「まず、私立の中高一貫校で、帰国生枠の入試を実施しているのは全体の1/3程度ですが、募集定員を若干名とする学校が多く、全体の定員は少ないです。若干名が実際に何名なのかは学校によりますので、詳細は各校に問い合わせてみるとよいでしょう。帰国生入試を実施する学校は、少しずつですが増える傾向にあります。」
また、帰国生枠の対象条件は、海外生活が何年以上、帰国後何年以内など、学校により異なるようだ。
◆帰国生には入試チャンスが多い
帰国生の中学受験のもうひとつの特徴は試験日にもある。
「たとえば東京や神奈川の場合、一般入試の解禁日は2月1日となっていますが、帰国生枠の入試はそれより前に設定されることが多いのです。実践女子学園(第1回)は11月後半ですし、頌栄女子学院(第1回)や広尾学園は12月、聖光学院、白百合学園は1月にそれぞれ入試が実施されます。そのため、帰国生枠で受験し、一般入試でも受験できるなど、選択肢が増えるという考え方もできます。」
もちろん、一般入試と帰国生入試では問題が異なったり、合格基準が違っていたりするので、両方の入試に向けた対策は必要になる。帰国生の受験条件が、帰国後2年以内、3年以内といった場合、一般入試の対策にも十分な時間がある。帰国生だからと、その枠に縛られる必要はなさそうだ。
【次ページ】「帰国生は一般より合格しやすいのか」へ
◆帰国生は一般より合格しやすいのか
赤嶺氏によれば、以前は帰国生は有利と言われたこともあったが、試験内容、科目などの違いから、一般入試との単純な比較はできないとする。受け入れ校、募集定員、英語の作文、面接といった条件も考えると、一般入試と同等と見たほうがよいというのが赤嶺氏の意見だ。特に前述したように、帰国から入試までの間に、一般入試も視野に入れた受験生が帰国生枠を利用して受験してくるので、ライバルのレベルは低くないと考える必要もあるという。
帰国生枠の入試を考える場合、学校によって入試科目のバリエーションが多岐にわたる点も注意が必要だ。関東の一般入試の場合は国語・算数・理科・社会の4教科が基本となるが、帰国生枠入試は、国語・算数の2科目、2科目+英語、英語のみ、日英の作文、4教科フルに設定している学校もある。
「試験科目や内容について、細かい条件まで含めると30パターンくらいあると思ってください。作文を課す学校も多いですね。テーマも多彩で、海外経験を書かせるものや憲法の問題など答えのないテーマの作文も要求されることがあります。一般入試では面接は減る傾向にあるのですが、帰国生入試では親子を含めた面接がほぼ必須となっています。」
◆どんな受験対策が必要か
帰国生の受験対策では、なるべく早い段階で学校を決めることが重要だ。入試科目が学校により異なるからだ。必要な科目が決まれば対策は立てやすい。しかし、それより重要なのは「幅広く選ぶ」ことだと赤嶺氏はいう。
「お子さんの希望で行きたい学校が明確ならば、それに絞った対策がいいでしょう。しかし、この場合幅が広がらないという側面もあります。SAPIXでは、帰国生枠で受験するお子さんにも、基本は4科目コースでの勉強を勧めています。4科目で受験対策をしておけば、一般入試も選択肢に入れることができます。理科・社会などの高度な問題に追いつけるか、という心配もありますが、そういう問題はメディアなどに取り上げられやすいため目立っているだけです。実際には普通の対策で十分に点のとれる問題もあります。」
◆帰国のタイミングは
では、その対策はいつごろから始めるのがベストなのだろうか。海外赴任中でも、子どもの受験を考えると、母親と子どもだけでも先に帰国させるべきだろうか。だとしたら、それは何年生がいいのだろうか。そんな疑問や相談をよく耳にする。
しかし、赤嶺氏は、この点もあまり心配する必要はないという。
「まず、海外で受験勉強をする場合ですが、参考書やテキストは市販のもので特に問題ありません。海外でセミナーをすると、勉強方法について質問されますが、いまの参考書はよくできているので、海外だから不利ということはありません。受験するなら何年生までに帰国すればいいか、という質問に対しても、仕事や家庭の都合で決めればよいですと答えています。」
ただし、4年生の授業内容から、入試の応用問題、発展問題に関係するものになってくるので、受験対策を始める一般的な目安にはなるという。
SAPIX 国際教育センターでは、帰国生の受験対策や相談のため、世界各地でセミナーを開催している。そのようなセミナーや国際教育センターの窓口を利用することができる。また、具体的な内容については志望校に直接問い合わせてみるのがよいだろう。
2016.5.9 リセマム
英語のみでの受験が可能な中学校(一例)