人生のちょっとした岐路でしかない中学受験

 

 

◆受験生の皆さんへ~自己紹介を兼ねて~

 私が初めて中学受験の世界に足を踏み入れ、小学生を相手に算数と理科を教えるようになってからはや33年半、1世紀の3分の1以上がたちました。

 私が働いているのは1学年200人前後の小規模な塾なので、いつの頃からか「塾長」という肩書をいただき、もうすぐ還暦を迎える年齢になりながら、今でも週6日教壇に立ち、毎年6年生2クラスの担任として、50人余りの受験生の指導をしています。

 縁あって、この欄でほぼ月に1回くらいのペースで連載を担当させていただくことになりました。堅苦しい話ではなく、今もまだ受験生や保護者の方々と苦楽を共にしている1人の塾教師の立場から、「現場の声」をお伝えしていきますので、よろしくお付き合いください。

 

 

◆就活、婚活、そして“学活”(?)

 いま世間でフツーに流通している「就活」(シューカツ・就職活動)という言葉が『現代用語の基礎知識』に掲載されたのは2000年から、「婚活」(コンカツ・結婚相手を探すこと)という用語が使われるようになったのは2008年頃からだそうですから、意外と最近のことなのですね。

 受験生の保護者の皆さんにとっては、今がまさに最終的な「志望校選び」=「学活」(?)の時期でしょうから、今回は「学校選びのポイント」について書くことにします。

 私たちの塾では、いま毎週2校近いペースで「塾主催学校見学会」を開催しています。見学会のあとは、私たち教師と保護者で「ランチ会」(感想会)を行うのですが、毎回、保護者からため息交じりに語られるのは、「どの学校を見学しても『ステキ』と思ってしまうので、何を決め手として選べばいいのかわからない」、そして「ステキだと思うけど、ウチの子の成績では受かりそうにない」という二つの悩みです。

 「こちらが希望しても、相手がウンと言ってくれるとは限らない」……それは就活や婚活にも共通する悩みです。それに対して“学活”特有の難しさは、「学校選びをするのは親(主に母親)」だけど、「実際に受験し、通学するのは子ども」だということです。

 「親の願い」と「本人の希望」と「学力」がすべて合致していれば、何の悩みもありません。「学力だけが合致しない」場合は、もっと勉強させて成績を上げるしかありません。これはまた別の機会にお話ししましょう。

 となると、残された問題は、最終的に「誰が選ぶのか」、そして「何を決め手にするのか」という2点です。

 

 

◆大事なのは「ママ目線」で学校を選ばないこと

 以前、ある男子校の校長先生から「進学実績も決して悪くはないし、教師も本当によく頑張っているのに、なぜ受験生が減り続けるのでしょう。私の力不足なのでしょうか?」と、深刻な口調で相談を受けたことがあります。半分冗談で「都心のオシャレな街の、駅から徒歩2分の場所に最新のオフィスビルみたいな校舎をかまえた共学校と、私鉄沿線の昭和の雰囲気満載の駅から徒歩10分以上の男子校。『いまどきのママたち』がどっちを選ぶと思いますか?」と、意地悪な返事をしてしまいました。

 私は特定の学校に「肩入れ」をするつもりはありません。どの学校が向いているかは、子どもの性格や保護者のニーズによって異なるからです。ただ、「駅前の通学路に赤提灯(あかちょうちん)の店が並んでいるから」とか「駅から遠いから」というのはあくまでも「ママ目線」の判断であり、せいぜい年に数回、保護者会や個人面談で足を運ぶだけのママではなく、毎日通学する子どもの目線で学校を選んでほしいと思うのです。

 同様の理由で、(特に男子の場合)モダンな校舎やオシャレな教室も必要ないと思います。私が一番好きなのは神奈川県のA校の教室。広々とした教室の前方と後方は端から端まで巨大な黒板で覆い尽くされている。黒板を消す手間と、生徒が板書を書き取るのを待つ時間が省け、熱のこもったいい授業をする上では最高の環境といえます。ちなみに私が通っていた名古屋の県立高校の教室も同じでした。

 あとは生徒が入りやすいオープンな構造で、質問スペースがある職員室と、授業後まで利用できる食堂があれば最高ですね。本当は広い土のグラウンドも譲れないポイントなのですが、都心では、ないものねだりに近いのが残念です。

 要するに「子どもたちがのびのびと生活し、しっかりと勉強できる空間」であること以上に重要な要素は何もないと(個人的には)思うのです。

 

 

◆「自己の確立」を促す通学の時間

 また通学時間に関してですが、東日本大震災以来、「自宅からすぐに迎えに行くことができる学校しか通わせない」という保護者が急増しました。親としての思いは理解できますが、そんな「検索条件」でヒットする学校が何校もあるはずがありません。

 電車内や駅から学校までの通学経路は、友だちとバカ話をしたり、本を読んだり、ぼんやり物思いにふけったりするかけがえのない時間です。もし「家から徒歩数分」の学校に進学したら、いつまでも家と学校の保護監視下に置かれたようなもので、思春期の最大の発達課題である「自己の確立」が促されないような気がします。

 「駅から遠い」「駅前の町並みがダサい」とママ目線で決めつける前に、せめてその通学経路を我が子と一緒に辿(たど)って、子どもの率直な感想を聞いてみるべきです。少なくとも小学生の男の子たちは、駅前のオシャレなカフェの存在には興味を示さないはずです。

 

 

◆「子どもの意思」は尊重すべき?

 では、ママの意見ではなく、本人の意思で学校を選ばせるべきなのか、というと、私の答えは「No」です。志望校は、信頼できる専門家の意見をよく聞いた上で、あくまでも親が決めるべきです。

 だって、彼らは学校のことなんかほとんど知らないはずですよ? せいぜい文化祭を見て「鉄道研究会のジオラマがすごかった」とか、「高校生クイズ大会を観(み)て憧れた」とか。志望理由が「テレビで観た寮の風呂が広かったから」という教え子もいました。教育理念やカリキュラムなんかもちろん知らないし、何より、ふだん中学生や高校生が生活し勉強している様子を観る機会もないのですから。

 「でもウチの子は『B中はいやだ。絶対にC中を受ける』って、私たちが何を言っても聞かないんです」という相談もよく受けます。その子の主張に理があるし、確かにC中が向いていると判断したときは親の方を説得することもありますが、それはレアケース。両親と我々の判断が「B中」で一致しているときは、本人と差し向かいで話をします。女子には頑として持論を曲げない子もいますが、男子はほぼ100%説得に成功してきました。

 まず本人の話に耳を傾ける。すると、彼らが『B中はいやだ。絶対にC中を受ける』と言い張る理由は、ほとんどの場合「偏差値」なのです。「B中は自分より下のクラスの子が受けるから」「1組にいる同じ学校の友だちがC中志望だから」というわけです。そこで「偏差値」が学校の良し悪(あ)しを決める物差しではないことを説明し、「B中がどんな学校なのか、なぜ君がB中に向いているのか。なぜお父さん、お母さんが君をB中に入れたいと願っているのか」を話してあげれば、まず確実に「落ち」ます。彼らには学校を取捨選択するための情報も根拠もないから、信頼する「誰か」に背中を押してもらいたがっているのです。

 

 

◆すべては「進学」してから始まる

 これはあくまでも「よくある事例のひとつ」ですし、持論を皆さんに押し付けるつもりもありません。ただ「実際に6年間通う子どもの目線で、ふだんの学校生活や生徒の様子を観ること」が最大の「決め手」であり、その上で、最終的な判断は親がするべきだという「ひとつの意見」は、できれば頭のどこかにインプットしておいてください。

 またフルタイムで仕事をしていて、どうしても平日の学校見学会に参加できない場合は、下校時間帯に学校から駅まで歩く生徒たちの姿を観察し、そのなかにいるわが子の姿を想像してみるといいでしょう。もし小学校が午前中で終わる日があったら、是非お子さんとご一緒に。意外とこれが学校の雰囲気を肌で感じるのに役立ちますし、お子さんのモチベーションを高めるきっかけになるかもしれません。

 そして最後に。

 どれだけ知恵を絞り、勇気を振り絞って決断しても、その学校に合格できるかどうかはわかりませんし、進学した学校がその子にとってベストの選択だったかどうかは、たぶん少なくとも卒業するまでは判断できません。

 だから本当の学校選びの秘訣(ひけつ)は、どの学校を受験し、どの学校に進学しても、すべては「結果オーライ」だと腹を括(くく)り、新しい人生の門出を祝福する覚悟を決めること。彼らがやがて自ら選択を迫られる就活や婚活に比べれば、中学受験なんて、長い人生のなかの「ちょっとした岐路」に過ぎないのですから。

 

後藤卓也

 

 

2017.10.29

読売オンライン

 

 

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