「早稲田塾」が大量閉鎖を推し進める真の狙い

 

■1990年代から映像授業配信に着手

 大学受験予備校の「東進ハイスクール」「東進衛星予備校」、中学受験塾の「四谷大塚」などを展開するナガセは6月6日、大学受験予備校「早稲田塾」の11校舎を閉鎖することを発表した。全23校舎の約半数について8月末をメドに一気に閉めるということで、衝撃的なニュースとして伝えられている。

 これが何を意味するのか。(ちなみに芦田愛菜ちゃんが通っていたのは早稲田アカデミーで、早稲田塾とはまったく関係がない)。

 ナガセは予備校や塾のほかに、イトマンスイミングスクールなどを擁する教育関連企業である。テレビで人気の林修さんも東進の講師だ。

 よく駿台、河合塾、代々木ゼミナールの3大予備校と比較されるが、これら3大予備校が主に浪人生を対象にした文字どおりの予備校であり、母体も学校法人であるのに対し、ナガセの東進ハイスクールや東進衛星予備校は、現役生を対象にした現役予備校であり、母体が株式会社という違いがある。

 18歳人口のピーク期は1990年代前半。当時はおよそ3人に1人は浪人するという時代であり、予備校業界は濡れ手に粟だった。大箱の教室に受験生を詰め込み、テレビタレントさながらのカリスマ講師が授業をする様は、「劇場型授業」あるいは「ドル箱教室」などと呼ばれた。

少子化の波

 しかしバブル景気は終わり、さらに少子化の波が着実に近づいていた。ナガセは大手予備校とは違う路線に舵を切る。1991年に衛星授業「サテライブ」を開始し、翌1992年にはそれをフランチャイズ事業化した。劇場で演劇を見るように授業を受けるのなら、それを映像化して配信できるはずだ。それなら、大きな校舎をつくる必要もないし、何より、全国津々浦々の高校生に、首都圏と変わらない授業を届けることができる。そんな発想だったのだろう。いまでこそ映像授業は珍しくないが、東進はその先駆けだった。

 ちなみに「東進ハイスクール」はナガセの直営店、「東進衛星予備校」はフランチャイズ店。東進衛星予備校は、全国各地の有力塾に、ナガセが映像授業教材と指導ノウハウを提供するしくみ。雑居ビルの1室のような教室も多い。それだけに固定費は安く、経営効率はいい。大箱の予備校に比べ、不景気にも少子化にも強い。東進衛星予備校のネットワークを全国に張り巡らせることで、ナガセは成長した。

■AO入試対策が得意な早稲田塾を買収

 2006年、ナガセは中学受験の老舗「四谷大塚」を傘下に入れ、業界に衝撃を与えた。顧客接点の早期化を図る狙いだ。2010年には代ゼミが中学受験で飛ぶ鳥を落とす勢いの「SAPIX」を傘下に入れたことで、「ナガセ―四谷大塚」vs「代ゼミ―SAPIX」という、受験産業戦国時代と呼ぶべき象徴的な構図ができあがった。

 ナガセが「早稲田塾」を傘下に収めることを発表したのは2014年10月。前年12月に教育再生実行会議が「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」を発表し、いわゆる「大学入試改革」の構想を打ち出し、その方向性がだんだんと見えてきたころだった。

 早稲田塾はAO入試や推薦入試対策を得意とする塾である。ナガセが、2020年の大学入試改革をにらみ、早稲田塾を傘下に収めたことは明らかだった。決断の早さに当時私はびっくりしたことを覚えている。

 今振り返れば興味深いのは、ナガセが早稲田塾を傘下に収めることを発表したのとほぼ同時期に、代ゼミは20もの校舎の閉鎖を発表していることだ。このとき世間の反応は「時代の流れについていけなかった代ゼミ」である。しかし私はそのとき、こんなツイートをしていた。

「代ゼミの校舎閉鎖に対して批判的な報道が多かったけど、他予備校に先駆けて、すべき決断をしたというだけで、後から見れば、「代ゼミの決断は早かった」という評価になると思う。東進がAO入試に強い早稲田塾を買収したのも、6年後の大学入試改革に向けての、これまた迅速な経営判断」(2014年10月29日のおおたとしまさのツイッター)

 

 

体力があるうちの「前向きな判断」

 代ゼミはただ収益率の悪い校舎を潰したのではない。2010年には難関大学現役合格塾として「Y-SAPIX」のブランドを立ち上げており、すでに新しいビジネスモデルの足場を用意していたのだ。少子化で、従来の予備校のビジネスモデルが立ちゆかなくなるであろうことは火を見るより明らかだった。旧来の「代ゼミ」から「Y-SAPIX」へのビジネスモデルの移行を「予定どおり」推し進めただけである。実際あのとき、「代ゼミ」の校舎は縮小しても「Y-SAPIX」は縮小していない。

■「閉鎖」は余力があるうちの前向きな経営判断

 さて、今回の早稲田塾の校舎の大量閉鎖。せっかく2020年度の大学入試改革をにらんで手に入れた「早稲田塾」の看板を、なぜ縮小するのか。これも「予定どおり」なのではないかと私は思う。早稲田塾は一棟建ての立派な校舎を展開していた。当然固定費率が高く、収益率は低い。これはナガセの流儀ではない。早晩収益構造の改善はしなければならなかったのだ。

 早稲田塾を傘下に収めたとき、ナガセがほしかったのは早稲田塾の校舎ではない。早稲田塾のAO入試・推薦入試対策の教材やノウハウだ。これを自分たちの十八番である映像授業やオンライン授業に移行していくつもりであったはずだ。それは、中学受験塾の四谷大塚でもオンライン授業やICTを活用した教材開発に力を入れていることからも想像できる。

 そうはいっても校舎には生徒がいる。むげに潰すことはできない。固定費は減らしたいものの、そのタイミングをうかがっていたはずである。今回このタイミングで閉鎖を決断したのには、おそらく前期決算における減収が大きな要因になっている。2017年3月期決算でナガセグループ全体の売り上げが前年度を割り込んでいたのである。そのうち早稲田塾単体で約16億円の赤字を計上していた。

 不況、少子化をものともせず、右肩上がりの成長を続けていたナガセとしては忸怩(じくじ)たる思いがあり、このタイミングで「損切り」を決断したと考えられる。つまり、これも、体力があるうちの「前向きな判断」の1つである。「早稲田塾」の教材やノウハウは、2020年の大学入試改革以降、ナガセの新たなコンテンツになり、東進衛星予備校を通じて全国の高校生に届けられることになるはずだ。

 代ゼミが、旧来の「代ゼミ」から「Y-SAPIX」へと名実ともにビジネスモデルの移行を進めているのと同様に、ナガセも、「早稲田塾」のビジネスモデルをドラスティックに変えようとしているのである。代ゼミのときも、今回も、「閉鎖」という消極的な側面にだけ焦点を当てて「経営危機」のように報道されることが多いが、いずれも時代の潮流をとらえた順当な経営判断であると私は思う。

 危ないのはむしろ、この期におよんで「動かない(動けない)」予備校や塾ではないか。

 

 

おおたとしまさ

 

 

東洋経済  2017.6.8

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