右へならえ!の中学受験は、受験産業のカモ?

 

教育や子育てに関する数多くのベストセラーを持つ、教育環境設定コンサルタントの松永暢史さん。数多くの子どもたちを超難関校に合格させた実績を持つ「受験のプロ」が、あえて私立中学受験に警鐘を鳴らします。真に子どもを賢くする教育とは何か? 松永さんならではの「ネットで書けるギリギリの」メッセージを、連載でお送りします。


■私立中学に入れることで子どもは賢くなるのか?

 連載のテーマは、「公立中学校で伸びる子」ですね。私にうってつけのテーマじゃないですか(笑)。

 結論から言えば、公立中で伸びるのは、幼児期から児童期にかけて、よく遊び、よく本を読んできた子です。国語力が高く、自分で学ぼうとする子。こういう子は、公立中に限らずどこでも伸びるのです。もちろん私立中学校でも伸びます。本来の意味で「アタマのいい子」になるからです。

 そもそも、公立中に行かせたほうがいいか、私立中を受験したほうがいいのか、という疑問があると思います。正直に言わせていただければ、「公立中に行かせるべきだ」と言い切ることはできません。現在の公教育には様々な問題があり、強くおすすめできない側面もあるからです。これについては、次回ゆっくりお話しします。

 では私立中学を受験すべきなのでしょうか。

 おすすめしたい私立中学はいくつもあります。公立中高一貫校にも魅力的な学校が多いと思います。ただし、塾通いしないで入学できるのであれば、です。

 問題は、学校そのものではなく「塾通い」なのです。現在の中学受験のシステムの中では、小学校時代の貴重な3年間を塾に奪われることになってしまうからです。「真にアタマのいい人」になるための遊びも読書も体験も失ってしまう、これこそが根本的な問題だということを、まずは強調させてください。

 

 

■「公立高校では一流大学には入れない」イメージ戦略

 首都圏で中学受験がブームになった背景には、公立中学校の荒廃がありました。30年以上前の「荒れる中学」「校内暴力」の時代に始まり、いまも学級崩壊、いじめ、学力低下と公立中にはマイナスイメージがつきまといます。

 さらに1980年代以降の、都立高校の大学進学実績の低下も大きな要因です。「一流大学に入学することこそが、幸せな人生へのパスポート」と信じる人たちが、「とても公教育に子どもを任せられない」と思うようになったのです。ここ十年ほどで都立高校が復権したといわれていますが、東大合格者の多くが私立の中高一貫校出身者で占められていることに変わりはありません。
 それをうまく利用しているのが、受験産業です。
 一流大学に入るためには、一流の中高一貫校に入らなくてはいけない。そのための情報もノウハウも、塾がすべてもっている。そんなイメージを作り上げました。
 なかでもアピール力があるのは「当塾から〇〇中学合格者〇名!」という合格者の数です。毎年2月の新聞の折り込みチラシ、すごいですよね。スーパーの「白菜98円!」と同じノリで「〇〇中学・合格〇人!」とアピールしています。親としては「この塾に入らないと、〇〇中には入れない。ってことは将来〇〇大学に入ることもできない」と言われているかのようです。

 

 

■受験産業に流されやすいのは、地方出身・共働き夫婦


 日経DUALの読者には、共働きで教育熱心な親御さんが多いようです。学歴が高く、収入も少なくはないので、私立に通わせる余裕もあるのでしょう。塾のチラシを見比べて「どこにしようかな」と思っている人も多いはずです。でも、それが「いいカモ」への第一歩です。

 私が知る限り、意外に危険なのは「地方出身・高学歴・共働き」の夫婦です。地方の公立中学校でまじめに勉強して、上位の公立高校を出て、都会の大学に入学して、そこそこの企業に就職し、結婚して子どもを持っている人たちです。

 こういう人たちは地方でのびのび育っていますから、子どものころはたっぷり遊んで、中学高校時代には恋愛や部活動を楽しんで、成績にも進路にもある程度満足しています。だから、子どもにも自分たちと同程度かそれ以上の学歴を持たせたいと考えているのですが、いかんせん都会の教育状況がわかりません。

 そこで、ママたちのランチ会などで色々質問するわけです。先輩ママの答えはこんな感じでしょう。「公立中は荒れているらしいよ」「進路指導してくれないらしいよ」「だから私立受験する子が圧倒的に多いみたいよ」

 さらに働くママへのとどめは「学童保育を卒業したら、塾に入れるのがいちばん番安心よ」……イチコロです(笑)。

 「じゃ、とりあえず塾で話を聞いてみよう」と体験会に行くと、後はレールの上を進むしかないのです。

 


■あなたの心に潜む「羊心理」に気づこう

 気持ちはわかります。よいも悪いもわからないので、前を歩いている人についていけば安心と思うのは人情でしょう。でも、その「羊心理」が危険なのです。群れから外れることなく、ただついていって安心感を得ようとする心理です。

 でも、羊たちの行き先について、深く考えていますか?

 進学塾は、当然のことながら営利団体です。利益を追求し、業績を上げなくてはなりません。業績を上げるということは、塾に子どもをひとりでも多く集めるということです。そのためには合格実績を上げなくてはいけませんから、塾は親身になってくれますし、手取り足取り指導をしてくれます。山のような課題、際限なく続く夏期講習、丸暗記の方程式。

 けれど、「この子は本当に受験に向いているのか」「遊びが足りてないのではないか」「塾ではなく、家庭教師が向いているのではないか」といったアドバイスをしてくれるはずはありません。


 私はこの仕事を40年以上続けていく中で、塾での学習についていけずに脱落してしまった子を数多く見てきました。奪われてしまった子ども時代は、どんなにあがいても取り返すことはできません。


 中学に入学したら遊べるでしょうって? まさか、まさか。

 難関校の子どもたちは、授業についていくために必死の努力をしています。勉強についていけずに留年、転校という子も珍しくはありませんし、燃え尽きて不登校になってしまう子もいます。

 何よりも、本来はたっぷり遊ぶべきだった子ども時代を勉強で終わらせてしまった結果、創造力や好奇心が欠如した人になってしまうことがいちばん恐ろしいのです。

 

■大学が真剣に育てたい学生は5%?

 そもそも我々は、何のために勉強しているのでしょうか。一流大学の学生になるためですか? いいでしょう、その大学の学生になれたとします。でも、多くの学生は「入学する」ことに精一杯で、何を学びたいか、何を研究したいかの肝心な部分が抜けたままで入学してしまいます。

 大学とは、専門家の話を聞きに行く場所です。専門家が語る専門性の高い話を聞き、専門書を読み、理解し、リポートにまとめられなければ大学での学びは成立しません。ある大学の教授は「真剣に学ぼうとしている学生は5%」と言い切りました。言い換えれば、大学が真剣に育てている学生も5%ということです。あとは、学費を払うだけの存在ということなのでしょうか。

 そんな「一流大学卒」が社会にでたらどうなりますか? 使えないエリート? 会社に言われたことを愚直にこなす社畜? ある人は、「おれ、ゴルフ場で『ナーイスショット!』と叫ぶの上手なんだよね」と自慢していました(笑)。それでよいのでしょうか。

■目標は「〇〇中学」ではなく「アタマをよくする」こと

 教育の究極の目的は「アタマのいい子」を育てること、と言っていいでしょう。

 でもそれは、偏差値や一流大学卒とイコールではありません。どんな大学に入学するかはとても大事なことですが、先に「〇〇大学」を目標に置いてしまうと、〇〇高校、〇〇中学と逆算式に受験がスタートしてしまいます。そして「〇〇塾に入れなくちゃ!」という、受験産業のつくった流れに無自覚に巻き込まれてしまうのです。

 子ども時代は、最大限アタマをよくすることを考えてください。その子の持つ力をどんどん伸ばしていくのです。その先には必ずよい結果がついてきます。でも、多くの親は「そんな悠長なことを考えてはいられない」と拒絶します。先に目的地を決めて段取りするほうが、安心だからです。その安心感が欲しいがゆえに、子ども時代にしか得られないものを失うのは、あまりにもったいない話です。

 

 

■中学受験をするなら公立中高一貫校か、近所のほどよい私立中へ

 とはいえ、公立中学を全面的にすすめているわけではありません。近くの公立中の評判が思わしくない、学校見学に行ったときの先生の対応がひどかったなど、行かせたくないケースもあるでしょう。

 そんなときは、小学6年生の1年間の受験勉強で入れるような中学を受験することをおすすめしています。子ども時代の遊びや読書、体験を極力減らさない作戦です。

 具体的には、公立中高一貫校を受験する方法です。受験問題を見るとわかるのですが、塾で知識を詰め込むよりも、それまでの読書量や体験の豊富さ、論理性、思考性などが問われる問題が主流になっています。つまり、ここに至るまでの家庭での教育力が問われるということになります。

 あるいは、1年間の受験勉強で入学できる程度の私立中学を受験するのもいいでしょう。ただし、英語と数学の授業が15人以下の少人数クラスでやっていること、家から近いこと、この2つが条件になります。

■子ども時代の「時間」を無駄遣いしてはいけない

 遠い学校に通わせてはいけませんよ。時間がもったいない。

 現代社会でもっとも大切なものは、「自分自身のために使う時間」です。子どもであれば、遊ぶ時間であり、興味のある本を読む時間であり、ぼんやり夢想する時間であり、友達と話す時間であり、エネルギーを蓄える時間であるべきです。通学に時間を使うなど、本質的にナンセンスです。

 受験する場合には、この点を必ず考慮したほうがいいでしょう。

 念のために付け加えますと、私は塾そのものを否定しているのではありません。塾のやり方を精査することなく、「いいらしいよ」のうわさに流されて、子どもの貴重な時間を奪うことを懸念しているのです。

 わが子をしっかり観察し、この子にふさわしい教育とは何かを考えたとき、必要なことがおのずと見えてくるのだと私は思います。


「それは公立中学を選ぶということなんですか?」という質問が聞こえますね。それについては次回、お話ししましょう。



(取材・文・構成/神 素子 撮影/花井智子)

 

日経DUAL 4/19(水)

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