偏差値38だった女子校が人気校になれた理由

 

名門進学校で実施されている、一見すると大学受験勉強にはまったく関係なさそうな授業を実況中継する本連載。第6回は東京の女子校「鷗友」の「深イイ授業」を追う。

■「園芸」は創立直後からの伝統科目

 鷗友学園女子中学高等学校は東京都世田谷区の閑静な住宅街の中にある。1980年代には中学受験の偏差値が38前後にまで下がったこともあった。1986年から学校改革に取り組み、いまや偏差値60超の人気進学校になった。

 校名は東京府立第一高等女学校(現在の都立白鷗高等学校・付属中学校)の同窓会「鷗友会」のメンバーたちが創立したことに由来する。

 「鷗友会」は府立第一高等女学校の校長だった市川源三を鷗友の校長に迎えた。市川は、生活体験を中心としてさまざまな技能や科目を総合的に学ぼうとする「コアカリキュラム理論」を当時の日本の実情に合わせて発展させ、「合科(ごうか)」という考え方を実践する教育者だった。現在でいえばまさに「総合的な学習の時間」ということになる。

 家事労働や生産労働に縛りつけられていた女性たちの、まさに労働という経験を出発点として、それを学問に結び付けようとしたのだ。たとえば、手紙を書くという行為から国語の知識や書道の技能につなげた。理科の知識を料理や野菜作りに生かすというようなことをした。その伝統が今でも受け継がれている。

 中1と高1で「園芸」の授業が必修だ。校地内にある実習園で、農作物や草花を育てる。創立直後からの名物科目であり、「限られた授業時間数の中でやりくりするのは大変なのですが、園芸は鷗友のシンボル。削るわけにはいきません」と吉野明校長。

 実習園の広さは100坪はあるだろうか。実習園のすぐ脇には、「園芸」専用の講義室があり、そこでも授業を行う。中1の収穫に立ち会わせてもらった。

 中1では、前期にラディッシュとツルナシインゲン、後期にホウレンソウもしくはチンゲンサイもしくはベンリナ、そしてブロッコリーを育てることになっている。葉菜類、果菜類、根菜類、花野菜のすべてを育てるカリキュラムだ。

 

 

野菜の栽培を通して、社会も理科も家庭科も学ぶ

 「実習ノートの15ページを見てください。ベンリナ、チンゲンサイ、ホウレンソウに付く害虫のことが書かれていますね。ネットの中に夜盗虫(ヨトウムシ)が入ってしまったようです。できるだけ駆除したのですが、追いつきませんでした。無農薬でやってきましたから、こうなるとどうしようもないんですね」

 担当の佐藤恵子先生が言う。

 「実習ノート」とは鷗友の教員が作ったオリジナルテキスト。栽培する作物について、さまざまな学問の視点から説明が書かれている。原産地はどこか、どういう経緯で日本でも栽培されるようになったのか、どんな品種改良がされてきたのか、どんな害虫が付くのか、どんな病気になりやすいのか、どうやって種をまけばいいのか、どれくらいの肥料をやればいいのか、どうやって収穫すればいいのか、どうやって食べればおいしいのか……。理科にも社会にも家庭科にも通じる。

■土いじりをしながら大声を上げる

 「ヨトウムシのほかにもカブラバチの幼虫なども付いているかもしれません。見つけたらコイの餌にしてください」

 隣のクラスの野菜に被害が及ばないようにするためだ。実習園の横には池があり、大きなコイが悠々と泳いでいる。

 講義室から実習園に移動して収穫を始める。

 「きゃー、ムシー!」

 実習園の至る所で悲鳴とも喚声とも区別のつかない声が上がる。

 「先生これは何ですか?」

 「ああ、それはアオムシの糞(ふん)ね」

 「えー、キモいー!」

 「洗えばきれいになるから大丈夫」

 摘み取った葉っぱにはときどきアオムシが付いているので、虫が苦手な生徒はおっかなびっくり。指示どおりコイの餌にする。アオムシを池に放り入れると、コイがそれをバクリとひとのみにする。その様子を見て生徒たちはまた喚声を上げる。

 よく見れば、本当にムシが怖くて騒いでいるわけではなく、それに便乗してここぞとばかりに大声を上げている生徒のほうが多いことがわかる。一見、文学少女のように見える生徒が、案外平気でムシをつまんで黙々と収穫していたりするのがこれまた面白い。

 なんとかアオムシと泥を払い、新聞紙にくるむ。1人当たり10把ほど収穫できただろうか。害虫に食べられ、水菜のようになってしまった葉っぱもある。

 「これ、食べるところないじゃん」

 生徒の1人がつぶやく。

 「こまかく刻んで餃子にすれば全部食べられるよ!」

 別の生徒が明るくアドバイスする。

 「農家の苦労がわかった?」

 佐藤先生が尋ねる。

 「わかりました!」

 

園芸の授業に込められた思い

■植物を育てるのも子供を育てるのも本質は同じ

 鷗友で園芸を教えて30年という木村亨先生に話を聞いた。

 「生徒たちにとっては半分息抜きみたいな時間ですね」と笑う。

 たしかに土いじりをしながら大声を上げ、だいぶストレス発散ができているように見える。

 生徒たちが実習園に入るのは週1回だけ。残りの日は先生が畑の手入れをしなければいけない。

 「植物は授業に合わせて成長してはくれませんから、毎日世話をしてやらなければなりません。今回、害虫にやられてしまったように、思いどおりにはいかないものです。でもそれが農作業ですからね。それを学んでもらえればいい。植物を育てるのも子供を育てるのも本質は一緒です。ちゃんと世話してあげなければいけないけど、手をかけすぎてもよくありません」

 まだかまだかと成長を待ちわびてもなかなか思うようには育ってくれず、ちょっと目を離している間にあっという間に大きくなってしまう。放っておいては育たないが、過干渉もよろしくない。チンゲンサイをブロッコリーとして育てようとしてもダメだが、かといって多少間違っていてもチンゲンサイはチンゲンサイとしてちゃんと育つ。植物を育てることはまさに子育てそのものであり、そこから母性を学んでほしいという思いが、鷗友の園芸には込められている。

 鷗友にはほかにも創立直後からの伝統を受け継ぐ科目がいくつかある。「リトミック」「聖書」「現代社会」「英語」などである。

 いずれも実学の傾向が強い。これが初代市川校長が当時の日本の女性のためにアレンジした「リベラルアーツ」すなわち「人を自由にする技芸・学問」の伝統なのだ。現在、世界の教育は、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育に代表されるように、まさに「合科」の方向に進化している。鷗友という学校が人気を盛り返したのは、時代の荒波の中でも教育理念を保持し続け、それに時代が追いついてきたからなのかもしれない。

 

 

 

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