男子進学校・桐朋生がガチで縄跳びする理由

 

名門進学校で実施されている、一見すると大学受験勉強にはまったく関係なさそうな授業を実況中継する本連載。第3回は東京・国立の中高一貫男子校「桐朋」の「深イイ授業」を追う。


■桐朋生はみんな「縄跳び名人」

 東京都国立市。一橋大学の至近にある桐朋中学校・高等学校の出身者は皆、普通ではない難易度の縄跳びができる。私はそんなうわさを、アラフォーを過ぎた桐朋卒業生たちから聞いていた。

 授業開始のチャイムが鳴る前、1人の生徒がおもむろに縄を跳んだとき、卒業生たちの言っている意味が飲み込めた。なんという技なのかはわからない。単なる二重跳びやあや跳びではない、見たことのない複雑な跳び方をしていた。

 見学をしたのは高2の体育。担当は神本堅二教諭。

 「はい。集合!」

 神本教諭の周りに集まる生徒たちは、列をつくるでもなく、なんとなく先生の周りに集まる。

 「うちはこういうとき整列しないんですよね。結構びっくりされます」と、広報担当の河村理人教諭が慌ててフォローする。しかし私にはまったく違和感がない。これは男子校ではよくある風景。ましてや桐朋は昔から、飛び抜けて自由な校風で知られている。

3学期の授業で多く得点することを目標にしている

 「カード持ってるか?  忘れた人は?  いない?  みんな持ってるね」

 「カード」とは「高2縄跳び練習カード」のことである。B4サイズの厚紙の両面に、「規定種目」「単独技」「自由演技」の3項目それぞれのリストが印刷されている。

 「総得点」の欄の下には「評価基準:総得点および難易度の高い規定もしくは高得点の自由演技を総合的に判断する」とある。3学期の6~7回の授業で、できるだけ多く得点することを目標にしている。

 整列はしていなくても、なんとなくみんなの目と耳は先生のほうを向いており、まったく私語がないわけではないが、先生の言葉が聞こえる程度には静かだから先生もいちいち注意はしない。一斉に準備運動をするという集団統制的な雰囲気もほとんどない。そんなアバウトさがいかにも桐朋らしい。

 「じゃあ、各自準備体操をしてから練習を始めてください」と神本教諭が言っても、案の定、準備運動らしい準備運動をする生徒は少数派。ほとんどの生徒がすぐに縄を跳び始める。中には友達と2人組で、「お嬢さん、お入んなさい」を始める生徒もいる。繰り返すが、桐朋は男子校である。

■縄跳びも変わっている

 みんな、変わった縄跳びを持っている。持ち手の部分は竹を切っただけのもの。それにビニール製の縄を結ぶ。竹とビニールの縄は学校の購買部で販売されている。竹の太さは一本一本違う。ビニール製の縄は4色から選び、自分の跳びやすい長さに切って使う。つまり縄の一つひとつがカスタマイズ製品だ。持ち手をビニールテープで巻いている生徒も多い。滑り止めと補強の2つの意味がある。

 

「B」に挑戦する生徒

 生徒たちが散らばると、神本教諭は体育館の一画に机を置いた。早速生徒たちが自分の技を見てもらおうと集まってくる。

 「規定種目」では7種類の跳び方をそれぞれ4回ずつ成功させなければいけない。1回でもミスすればそこでおしまい。1種類の技を間違えて5回跳んでしまってもアウトだ。

■跳び方にも個性が現れる

 最初の生徒が「規定種目」の「E」をクリアした。見ていた周囲の生徒からも「おー」という小さな歓声が上がる。「規定種目」の難易度はM~Aの13段階。「F」まではクリアしないと桐朋生とは認められないといわれている。しかし、「A」をクリアした生徒は20年以上出ていない。

 生徒たちの会話からは、「3回旋やった後に2回旋にいくのってちょっと嫌だよね」とか「こっちはEを跳ぶのに必死なのに、あんなに簡単そうにCとか跳ばれると困るよね」などという声が聞こえてくる。上手な友達に跳び方のコツを聞く生徒もいる。

 よく見ていると、跳び方にも個性があることがわかる。陸上部の短距離走の選手だという生徒は、身長はそれほど高くはないものの、筋肉の塊のような体をしている。上半身の筋力を生かして、パワフルな跳び方をする。一方、長身で細身の生徒は、無駄のないなめらかな跳び方をする。

 多くの生徒が「F」や「E」に挑戦する中、「B」に挑戦する生徒が現れた。「彼はうまいですよ」と神本先生が教えてくれた。周りの生徒たちもそれを知っている。注目が集まる。何度か挑戦したが惜しいところでミスが出る。

 「これだけの連続技をやると、後半、手が回らなくなるし、ジャンプ力も落ちるんですよ。そして、あとちょっとというところで油断するパターンも多い」と神本教諭。逆に気負いすぎてミスをしてしまうというケースもある。最初から最後まで、平常心を保つことが重要だ。

 気を取り直して同じ生徒が再び挑戦。1つ目の技をクリア、2つ目もクリア――。体育館中の注目が集まる。みんな声を潜めている。5つ目クリア、6つ目も――。最後は「速あや三回旋順交順」いわゆる「三重跳びのあや跳び」である――。成功! 

 「ウェーイ!! !」

 体育館中がどよめく。

 

技ができたときの喜びを知ってほしい

 1952年のヘルシンキオリンピックに体操日本代表として出場した金子明友教諭が、まさにその年、桐朋の体育の授業で縄跳びを導入した。その後、1960年代に、太田昌秀教諭が、体操の規定演技と同様のロジックで、技を難易度別に体系化した。現在の「規定種目」は、もう30年以上変わっていない。

■縄跳びは努力が9割

 授業時間だけでは足らず、休み時間に体育教員を捕まえて、その場で検定を受けようとする生徒も多い。可能なかぎり、対応する。

 「縄跳びは努力が9割。縄跳びでもマット運動でも鉄棒でも、技ができたときの喜びを知ってほしい。コツコツ努力を積み重ねれば、どんなことでもできるようになることを知ってほしい」

 神本教諭がこっそり教えてくれた。「あの生徒は学年でもトップクラスの成績なんですよ。跳び方もきれいですよね」。縄跳びが上手な生徒は、大学進学の面でもよい結果を残していることが多いのだそうだ。縄跳びが学力を引き上げるということではない。一時間一時間の授業を大切にして、地道な努力を怠らないことが重要な点で、縄跳びと勉学は共通しているということだ。

 

 

おおたとしまさ

 

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