「大学付属校」の内部進学がズルく見える理由

 

■大学付属中高の人気が上昇中

 2020年以降の大学入試改革が議論される中、中学受験において大学付属校の人気が高まっている。一時期は「大学全入時代なのだから大学ではいるほうがラク」ということで、大学付属校はどこも人気を落としていたが、思わぬところから追い風が吹いた形だ。

 消極的な理由としては、いまだ先行きが見えない大学入試改革の混乱を避けるため。拙著『大学付属校という選択』で詳しく触れているが、積極的な理由としては、探究型学習や教養主義など、大学入試改革が目指す新しい学力観に基づく教育がすでに大学付属校にはあるからだ。

 拙著では早慶MARCH関関同立(早稲田・慶應・明治・青学・立教・中央・法政・関大・関学・同志社・立命館)の付属中高77校を網羅した。当初はもっと学校数を絞って掲載する予定だったが、大学付属校のしくみを解き明かそうとするうちに結局ほとんどの学校を取材する必要に迫られ、全校を掲載することになった。

 普通の私立中高一貫校は、たとえてみれば中小企業のような組織である。校長が「社長」であり、自分の言葉で自分の学校について語ってくれるのでわかりやすい。しかし大学付属校の場合、大学という「本社」があり、その「支社」としての付属校という多重階層になっているので、全体像がとらえにくい。

内部推薦の審査基準は?

 本社と支社の関係は、大学によってあるいは付属校の立ち位置によってさまざまだ。たとえば一般的には「付属校」と思われていても、実は大学とは別法人が経営している学校も多く存在する。当然大学との距離感は異なる。

 有名なのは早稲田実業。早稲田大学とは別法人が経営しており、「付属校」ではなく「系属校」と呼ばれる。一方、慶應義塾傘下の学校は、すべて大学と法人を同じくするが、「付属校」という呼び方は使わず「一貫教育校」と呼ばれる。大学に付属しているのではなく、それぞれ独立した学校であるというアイデンティティの表明である。

■AO入試で他大学を受験することも可能

 拙著の執筆に当たって、私は大学への内部進学のしくみについて詳しく調べた。ペーパーテスト一発の入試で合格者を決めるのではなく、高校3年間の成績およびその他の成果を踏まえ、内部進学者を審査するしくみは、大学入試改革が目指す理想の高大接続に近い。そこに新しい高大接続の在り方のヒントがあるのではないかと思ったからだ。

 高校3年間の定期試験の成績で評価が決まる学校が多いのだが、ユニークなのは立教池袋。内部推薦審査において、高校3年間の成績が占める割合は55%。20%は「卒業論文」、25%は「自己推薦」を評価する。

 「卒業論文」は高2から高3にかけて約1年間に渡って取り組む自主研究。「自己推薦」は高校3年間で自分が注力したことの報告である。クラブ活動でも生徒会活動でもボランティア活動でも検定試験でもいい。定期試験をコツコツ頑張るタイプの生徒だけでなく、それぞれの生徒の個性を評価したいという姿勢の表れだ。

 また、昨今の傾向として、他大学受験を認める大学付属校も増えてきている。たとえば中央。いずれの付属校においても、内部進学の権利を保持しながら、国公立大学や海外大学を受験することが可能だ。私大であっても中央大学にない学部であれば併願が認められる。内部推薦審査が始まる12月中旬まで結果がわかるAO入試や推薦入試ならばどの大学のどの学部を受けてもよい。法政も内部進学の資格を保持したまま他大学を受験することが認められている。

 記事冒頭の写真にあるとおり、どの学校からどの学部に何人内部進学しているのかなど、早慶MARCH関関同立のすべての大学と付属校について、内部進学に関するデータを集め、図表にして掲載した。他大学受験に関するルールも、できるかぎり調べ掲載した。内部推薦の審査基準や他大学受験へのルールを公言する学校は多くはなかった。情報集めには苦労をした。週刊誌でもなかなかここまでの情報を網羅することは難しかったのではないかと自負している。

 

なぜか内部推薦基準を隠そうとする付属校

 しかしそもそも、この情報を入手するためにそんなに苦労しなければいけなかったのはおかしいと、私は思っている。各付属校がどういう基準で生徒を評価し、内部推薦を出すのかは、そのままディプロマポリシー(単位・卒業認定方針)を表すはずだ。どんな人物を育てたいと思っているのかを如実に表明しているはずだ。だとすればなぜそれを隠すのか。

■包み隠さず表明するのが真摯な態度だ

 なにも重箱の隅を突くような情報が欲しいわけではない。学校として、生徒のどんな面に光を当てて評価してあげたいと思っているのかという非常に重要な部分を知りたいだけなのに、一部の学校からは「なぜそんなことを聞くのか?」「そこまでは言えない」というようなけげんな対応を何度かされた。

 その点、前述の立教池袋の評価基準は非常にわかりやすい。他校も同様に、「自分たちの評価基準はこれだ」と宣言できないことに疑問を感じる。中央や法政のように、他大学受験に対するポリシーをはっきり示すことも、大切だ。「他大受験は認めない」でもかまわない。それを包み隠さず表明することが、生徒の将来への真摯な態度だと私は思う。

 それをしないから、「内部進学」に対する「ズルい」とか「やましい」印象が拭えないのではないか。大人の事情があるのはわかるのだが。

 息子を某付属校に通わせていたある保護者の声が象徴的だ。拙著から引用する。

 「(大学付属校の善し悪しは……)受験がないことを活かし、いろいろなことにチャレンジする校風、システムになっているか。そしてその結果としてのいろいろな個性をきちんと評価するシステムになっているかが鍵。しかしその点、息子の通っていた学校は大いに未熟で勘違いしている。

 数学のコンテストのようなもので何らかの実績を上げると加点されたりする一方で、部活はまったく参考外。要するに、部活などやらずに毎日コツコツ勉強し、お勉強系のイベントなどに参加し、点数を稼ぐ優等生タイプの生徒が有利なシステムだ。これでは普通の進学校から指定校推薦で大学に入るのと変わらない」

 せっかくの大学付属校が、口では「大学受験に縛られない本質的な学び」と言いながら、実際にはペーパーテストでいい点を取らせることに必死になっているのだとしたらもったいない。

 各大学付属校が内部推薦の審査基準、すなわち学校としてのディプロマポリシーや他大学受験へのルールを堂々と公言すれば、大学付属校から、絵空事ではない「新しい学力観」が発信できるのではないだろうか。それが大学入試改革の方向性にも影響を与え、日本の教育全体を変えることだって、十分ありうる。

 

 

 

東洋経済オンライン 12/24(土)

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