「出身中学」で就職が有利になるのは正しい

 

 

「子どもに中学受験をさせるべきでしょうか?」
この質問に対し、私はいつも強い信念を持って、こう答えています。「中学受験をさせるべきです」
そう語るのは、東大・大学院(東大は学部・大学院・研究所を含め計4回卒業)などを経て、現在は医師として日本初の受験生を専門に扱う心療内科のクリニックを営む吉田たかよし氏。『有名中学に合格した子の親がやっていること』の著者でもある吉田氏に、中学受験によって一生役立つ力を身につける方法を聞きます。■ 中学受験は何がいいの? 

 東大の「赤門」の真正面にある私のクリニックには、うつ病やパニック障害などを抱えながら中学受験に挑む子どもとその親御さんがやってきます。それに加えて、健康な子に対しても有名中学への合格に向けて、記憶力や集中力、やる気などを向上させる指導をしています。

 男子校であれば 「麻布」 「開成」 「武蔵」、 女子校であれば 「桜蔭」 「女子学院」 「雙葉」 といった「御三家」と呼ばれる有名中学(名門私立の中高一貫校)に入る。そうすれば、東大など超難関大学に合格する受験テクニックが身につけれる……私はそういった安直な理由で中学受験をおすすめしているのではありません。

 結果として超難関大学への合格に近づくのは事実ですが、それは受験テクニックを身につけられるからではありません。多くの人が誤解していることですが、中高一貫のトップ校では、そもそも“詰め込み主義”で日々受験テクニックを叩き込んでいるわけではありません。実態は、その正反対なのです。

 私自身、中学受験を経て灘中に通いましたが、自由放任主義といっていいほど生徒個人の自主性を尊重した校風が伝統的に受け継がれていることを実感しました。この傾向は、ほかの有名中学にも共通しています。

 昨今、そんな実態を知るようになった企業では、出身大学ではなく、出身中学を重視して人材採用する傾向が強まっているといいます。中学受験は、将来の就職活動も有利にしてくれるというのが最新のトレンドとなっているのです。

 

これは企業側にも確実にメリットのある正しい判断だと、私は思っています。というのも、有名中学の入試問題は、単に暗記力や計算力を問う“偏差値主義”ではなく、子どもの生活感や人間力にまで迫ったものだからです。深い思考力や情報処理力を問う、練りに練られた内容なのです。このへんを世間の多くの人は誤解しています。

 灘校時代のある同級生は、東大を経て現在、某大企業の人事責任者を務めています。彼によると、有名中学の高度な入試を突破した人材は、社会人になると世界に通用するビジネスを展開してくれるので、多くの一流企業が競って採用したがるそうです。同じ東大卒でも、有名中学の入試を突破した人とそうではない人で、“就職格差”が生まれようとしているわけです。

■ 「覚える入試」から「考える入試」に

 2020年に「大学入試センター試験」が廃止され、暗記力重視の“覚える入試”から、グローバル・スタンダードに基づいた思考力重視の“考える入試”に方針転換されることが、昨今話題となっています。

 そんな“考える入試”は、ずっと以前から有名中学では実施されてきたことです。 何も今に始まったことではないのです。つまり中学受験を経験することで、これから大学入試で必須とされる「考える力」を、早い段階から磨くことができるわけです。

 入試問題を作成する有名中学の先生方は、塾で教えるような受験テクニックだけでは合格できない問題を、工夫に工夫を重ねて丁寧に作っています。有名中学の入試問題には、学校と自宅と塾を行き来して子どもらしい生活を送っていない“ガリ勉“を排除するような要素が、明らかに意図的に盛り込まれているのです。

 そもそも、中高一貫校を卒業した先にある東大入試(2次試験)では、知識を詰め込んだだけでは解けない、奥深い思考力が問われます。

 中学入学時点で自分の頭でしっかり考えることのできる子を入学させたいのは、受け入れる有名中学の先生の立場からすれば当然のこと。そうしないと入学後に当の先生たちが中高6年間で苦労させられるからです。

 では、中学受験では、どんな能力が問われるのか。有名中学の過去問を下敷きに紹介することにしましょう。

 

二 次の詩を読み、後の問いに答えなさい。
しんじゅのぎょうれつ
まど・みちお
じいちゃんとおふろに入ったとき
ぼく おならが出ちゃった
くすぐったくて おもしろくって
あはあは わらった
ばんごはんのとき そのはなし
ぼくがすると
にんげんのからだから出てくるものが
あんなに 美(うつく)しいんだからなあ…
とじいちゃんが ためいきついた
そんなにほめたらおならが
きょうしゅくしますよとパパがわらい
ぼくもママも大わらいした
だがじいちゃんはまたじまんした
いやあれは ほんとに
しんじゅのぎょうれつだったぞう!  と
まるでおならがぼくとおなじに
じぶんのまごででもあるかのように…
2014年 開成中・国語 2番より一部抜粋

 祖父と孫がお風呂に入っていたとき、孫がおならをした。それを祖父が「真珠の連なり」にたとえたという、ほのぼのとした詩です。

■ 問題に託された重いメッセージ

 この問題を目にした私は、大きな衝撃を受けました。テーマはなんと「おなら」。天下の開成中の入試問題におならが出たのです。ちょっと脱力するというか、肩すかしをくらったような気にさえなりました。

 この年の開成中の国語は全3問。その1問に「おなら」を出すというのは、決してたやすい判断ではなかったはず。「かなり挑戦的」ともいえます。もっとも、開成中がこの問題に本当に託したかったのは、それよりはるかに重いメッセージだと私は思います。実は今、子どもたちの脳にある異変が起こっており、それが現場の教育者を悩ませているのです。いったいどんな異変なのか?  この問題を通して説明しましょう。
 
この問題で注目すべきポイントは「おなら」ではありません。祖父が孫をかわいがる感情に共感できるかどうかです。

 今、家族のコミュニケーションが疎かになりがちな状況や、子どもの健全な感情が育ちにくくなっているという社会的背景があるのです。開成中を目指す家庭では、両親がそれぞれキャリアを持ちながら共働きをして、祖父母に子育ての一部を頼っているケースもあることでしょう。その一方で、祖父母とどうコミュニケーションをとったらよいかわからずにいる子どもたちが増えているという懸念もあります。

 いずれにしても、開成中は子どもの家庭環境に強い問題意識を抱いているのです。

■ 文章から感情を読み解くことができない子どもたち

 一方で、近頃は文章から感情を読みとれない子が増えており、教育の現場で問題視されています。私自身も指導をしていてギョッとさせられたことが何度もあります。

 たとえば「太郎君が肩を落として涙を流していた」と書いてあっても、そこから「太郎君が悲しんでいる」ということを読み解けない子がいるのです。「悲しんでいる」と直接的に書かれていればわかりますが、「肩を落とす」「涙を流す」という描写から感情を読み解くことができない。国語教育において由々しき実態が現実にあるのです。

 苦肉の策として、私の友人である塾の先生は「涙を流す=悲しい」と子どもたちに暗記させているといいます。

 こうした危機的状況を踏まえ、有名中学の国語の入試で暗記や理屈だけでは解けない「心を通わせる力」や「共感する力」を試す問題が出題されるのです。おならを題材にした開成中の入試問題は、その典型例です。

 「塾ではこんなことを教えてくれませんから、家庭でしっかり情操教育をしてください」というメッセージが込められていると私は考えています。実際、いくら学力が高くても情操に乏しい子は、解答するのに苦戦しました。

 この詩を題材にした問題の問二を見てみましょう。

問二 
第四連に「しんじゅのぎょうれつだったぞう!」とありますが、このように言ったとき、「じいちゃん」はどのような気持ちだったと思いますか。説明しなさい。

 おならが美しいと感じたのは、孫に対して深い愛情があるからです。このことを詩から感じとれれば、小学生にとっても決して難しい問題ではありません。

 

 

しかし、私のクリニックに通う受験生のなかには、算数の難問はスラスラと解けるのに、この問題には「おならが一列になった形状が美しいため自慢した」と、的外れの解答をしてしまう子が多かったのです。さらに驚いたことに、母親に同じ問題を解いてもらったところ、子どもと同様の的外れの間違った解答をしてしまうケースが少なくありませんでした。 

 この現状に私は、塾任せの偏った学習がもたらす弊害の根深さを痛感し、背筋が寒くなる思いさえしました。この問題は、そんな現状に警鐘を鳴らしているのです。勇気を持って出題してくれた開成中の先生方に対し、子どもの脳機能を見る医師として、私は最大限の敬意を払いたい気持ちです。

■ 「深い思考力」を養う教育が足りない

 今、世界各国では、国の存亡をかけエリート教育にしのぎを削っています。国際競争が厳しさを増すなかで、エリートを育てないかぎり国の豊かな経済は維持できないからです。

 ところが日本は、エリート教育が明らかに立ち遅れています。それは、生きていくうえで必要となる「深い思考力」や、もっというと「人間力」を養う教育が足りないからではないかと思えてなりません。

 そして、そんな日本を救えるのは、それらをバランスよく問う中学受験という経験ではないかと確信しています。

 

 

吉田 たかよし

 

 

東洋経済オンライン

 

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