進学実績非公開なのに志願者殺到!謎の中高一貫校・神戸女学院

 

 

学業成績が優秀な子どもが進学先の中学・高校を選ぶ時、東大や京大、国立大医学部などへの進学実績によって評価するのが一般的だろう。しかし、その大学進学実績をあえて非公開にしている「進学校」が兵庫県西宮市にある。ミッションスクールの神戸女学院中学部・高等学部だ。英語のみならず、理数系にも強く、在校生や卒業生の話によると、国内の大学だけでなく海外の大学に進学する生徒もいるという。女子アナウンサーや医師など、各界で活躍する卒業生も数多い。関西以外ではあまり知られていない、この難関校のナゾを教育ジャーナリストの水崎氏が深読みする。

 

 

大学合格者数ランキングに載らない超進学校

毎朝、中高の全校生徒が礼拝をする講堂。定期考査の朝も、体育祭の朝も行われる(水崎さん撮影、以下同)

毎朝、中高の全校生徒が礼拝をする講堂。定期考査の朝も、体育祭の朝も行われる(水崎さん撮影、以下同)

 東京大学合格者数ランキング、国立大学現役合格者数ランキング、医学部合格者数ランキング、果ては入学時の偏差値と大学進学実績を見る大学合格力ランキングなど、大学合格者数による高校の格付けが世間を(にぎ)わす。

 しかし、こうしたランキングは必ずしも「完全版」ではない。実は本来、掲載されるだけの高い実績を上げているのにもかかわらず、登場しない学校がある。それが神戸女学院(兵庫県西宮市)だ。学校は生徒の進学先を把握しているが、大学合格実績を非公開とし、情報提供しない。

 高校入試をしない中高一貫女子校で募集定員はわずか135人。創立141年の歴史を持つキリスト教主義学校だ。西日本最難関、全国でも難関校のひとつに数えられる狭き門に、毎年多くの受験生が第一希望として挑んでいく。

 神戸女学院中学部・高等学部は、どうして多くの受験生を()き付けるのか、その理由を探っていく。

 

 

「才色兼備」! 女子アナウンサーを多数輩出

小正裕佳子さん

小正裕佳子さん

 大学合格実績を公表しなくても、卒業生たちの活躍は伝わる。なかでも女子アナウンサーは憧れの職業のひとつとして、伝播(でんぱ)力が強い。

 日本テレビの「ニュースZERO」で新しくキャスターを務める小正裕佳子さんは、東京大学に進学し、ミス東大に選ばれた才媛だ。テレビ東京の看板アナ・大橋未歩さんは上智大学、NHK「あさイチ」でお馴染(なじ)みだった西堀裕美さんは京都大学へ進学し、アナウンサーに。

 女性アナウンサーだけではない。50万部突破のベストセラーを持ち、読売新聞の健康・医療サイト「ヨミドクター」でも人気コラムを連載中の産婦人科医、宋美玄(そんみひょん)さんも卒業生のひとりだ。医学部に進学する生徒は、昔から一定数いる。

 神戸女学院中学部・高等学部を経て、難関名門大学へと進学し、卒業後、社会で(きら)びやかに活躍する数多くの先輩たち。女性も自立できる仕事を持つことが重視されるようになった今、その様子は女子の保護者に頼もしく映るだろう。

 神戸女学院に近い西宮市に本部を置き、幼児教育から現役大学受験予備校まで展開する「アップ教育企画」(ベネッセグループ)執行役員の小南達男さんは、保護者の意識変化を次のように指摘する。

 「我が子に良い学歴をつけてあげても将来の幸せの保証には不十分であると感じ、点数や偏差値で測ることのできない力を、どうやって伸ばしてあげるかにも目を向ける保護者が増えています」

 女子にとっても、人生のゴールは有名大学合格ではない。我が子のロールモデルとなる憧れの先輩たちの存在は、学校の大きな魅力のひとつとなっている。

 

 

数学オリンピックや国際哲学オリンピックに出場

中学生が学ぶ校舎。制服なし、校則もほとんどない

中学生が学ぶ校舎。制服なし、校則もほとんどない

 

この春、東京大学で初めての推薦入試が始まった。その募集要項に「数学オリンピックなどの科学オリンピックで顕著な成績をあげたことを示すもの」とあったことから、これらの大会への関心が高まっている。

 

 

 高校生の日本代表として選抜され、世界の舞台に出ていく生徒の中に神戸女学院の名前があがる。主催者の報道発表や公式発表によって広く知ることができるため、最近では「伝統あるお嬢様学校」なのに、「超進学校」「リケジョ育成校」でもあるという認識が広がっている。

 昨年の数学甲子園「第8回全国数学選手権大会(日本数学検定協会主催)」では、女子だけのチームが史上はじめて優勝し大きな話題となった。それが神戸女学院高等学部のチームだ。

 今年2月の「第26回 日本数学オリンピック」でも神戸女学院の高校生2名が日本代表に選抜され、4月からルーマニアのブシュテニで行われた「2016 ヨーロッパ女子数学オリンピック(EGMO大会)」に出場し、2人とも銅メダルを受賞した。

 女子は数学が苦手だという話を聞いたことはないだろうか。神戸女学院の数学や理系科目の教員は、女子特有の理解しにくい、またはつまずきやすいポイントを、丁寧にわかりやすく指導する、女子校ならではのノウハウを蓄積しているという。

 オリンピックで優秀な成績を残す生徒を輩出するベースには、女子に特化した指導があるようだ。

 もちろん、文系でも目覚ましい活躍が見られる。英語力とともに思索力や倫理的議論力が問われる「2015 国際哲学オリンピック選考会」で、神戸女学院の高校生がグランプリを受賞。「国際哲学オリンピック」日本代表に選出された。

 東京大学、京都大学を含む国立大学の推薦入試は、人数を増やし充実する方向だ。多様な試験により多様な受験生を迎えていこうという流れの中、従来からの大学合格者数による高校の格付けだけでなく、こういった大会に出ていく文化が学校にあるのかに注目が集まっている。普段の勉強だけではない。それを超えて挑戦していくロールモデルとなる先輩が実際にいることは説得力がある。ここにも神戸女学院の人気の強さを感じる。

 

141年間練り上げた日本人女子のための英語カリキュラム

ミッション校の証し。83年の歴史を重ねるチャペル

ミッション校の証し。83年の歴史を重ねるチャペル

 

 

 

 神戸女学院と同様に、女子御三家の女子学院、そして東洋英和女学院、明治学院、立教、関西学院、同志社、青山学院など、明治初期にまで歴史を遡ることのできるミッションスクールは多い。

 注目したいのは、神戸女学院が学校創立時から英語を教育の根幹に置いてきた点だ。来日した女性宣教師らは、自らが学んだアメリカのリベラルアーツカレッジの教育を日本でもと考え、最高の女子教育を目指した。

 そこで、外国人に英語を教えるためのメソッドの中で日本の中高生の女子に良いと思われるダイレクトメソッドや、ナチュラルメソッド、オーラルアプローチ、TPR(Total Physical Response Approach:全身反応教授法)といった教育法を体系化していったという。神戸女学院の英語教育は、まったく独自のカリキュラムというわけだ。

 最近、高校の英語教育の現場では、オールイングリッシュによる指導や、英語4技能(聞く、話す、読む、書く)をいかに伸ばすかが話題だ。その点、神戸女学院では141年前からネイティブによるオールイングリッシュの指導が行われてきており、その指導方法は時代の変化にあわせ、常にブラッシュアップされているという。

 独自の英語教授法は、神戸女学院の受験生の保護者にもよく知られている。志望動機としても、「将来は英語を話せるだけでなく、英語を使って何か専門的なことができる職業人へと育っていって欲しい」という声がよく聞かれるという。

 

 

TOEFL ITP高3全員受験 平均点480点

 神戸女学院の英語教育は学校独自のカリキュラムだと説明した。その成果は具体的にどのようなものだろうか。

 希望者だけだが、「実用英語検定」(英検)を受験した生徒は中3までにほとんど全員が2級に合格し、高1・高2の多くが準1級に合格する。留学や海外生活の経験がまったくないのに1級に合格する生徒もいるという。

 英語の詩を暗唱したり、英語の讃美歌を歌ったり、物語を読んだり、時にはクッキー作りを英語で行う授業があるなど、楽しそうだ。英検対策授業で合格者を作っていくのでなく、この成績はやはり独自のカリキュラムと指導によるものだろう。

 高3になると、英語の団体向け実力試験「TOEFL ITP」を全員が受験する。

 677点満点中、神戸女学院の平均点は毎年480点前後という。高校生の平均点が400点強、大学生が460点くらいなので、立派な成績だ。アメリカの大学の留学基準点である550点以上がおよそ1割強。大学院留学の基準である600点越えも数名。660点とほぼ満点をとる生徒もいるというから驚きだ。

 高校在学中に留学する生徒も多く、卒業後、欧米の有名大学に進学する生徒もいる。「グルー・バンクロフト基金」に合格した生徒もいると聞いた。日本の高校生がアメリカの一流リベラルアーツカレッジに4年間留学するのを援助する返済不要の奨学金制度で、4年間の学費と生活費に相当する奨学金による支援を得られるため、難関で知られる。

 やはり創立以来141年間検証し続けた独自の英語教育の成果だろう。

 

贅沢空間・・・重要文化財指定の「ヴォーリズ建築」の校舎で学ぶ

キャンパスにはヴォーリズ設計の校舎が12棟オリジナルに近い形で現存する

キャンパスにはヴォーリズ設計の校舎が12棟オリジナルに近い形で現存する

 ここまで学力について触れてきたが、神戸女学院が多くの受験生とその保護者を(とりこ)にするのがキャンパスだ。2年前に、国の重要文化財の指定を受けた。

 

学校が立地する阪神間は、大阪商人の別荘地として開発され、東京の高級住宅地「田園調布」の都市開発モデルとなった。文化人、芸術家も集まり、阪神間モダニズムと呼ばれる文化が開花したエリアでもある。

 神戸女学院は、阪神間の山手に緑あふれる丘をひとつ、まるごとキャンパスの用地とし、明治、大正、昭和の日本に数多くの西洋建築を残したアメリカ人ウィリアム・メレル・ヴォーリズに設計を委ねた。ヴォーリズは、東洋英和女学院の初期の校舎や、明治学院の礼拝堂をはじめ多くの学校の設計を手掛けている。

 有川浩による小説「阪急電車」に登場する門戸厄神駅が最寄り駅。徒歩でキャンパスへと向かい、緑に縁取られた坂を登れば81年前と同じ変わらぬ風景が広がる。

 

 

ミッションスクールのリベラルな校風が保護者の気持ちを掴む

 

 進学校と呼ばれる私学の中には、「放課後に塾に行かなくても、お子様にしっかり勉強させます」と明言する学校がある。いわゆるダブルスクールは不要という学校だ。その指導の結果、現役で東京大学には○人、京都大学には○人、医学部には○人合格と数字を示し、我が子もその数字に入れることを保護者は期待する。

 一方で、「塾に行くのも自由、しかし、学校の勉強をしっかりすれば大学受験には対応できる教育を提供しています」と明言する学校がある。

 神戸女学院は後者の学校で、大学受験勉強のためだけでなく、校内・校外の多様な経験を通じ一生の財産となる基礎を思春期に養っていくことが大切という。

 我が子は、どちらに向いているのか。管理教育か、自律を重んじる自由な学校か。中学受験は子どもが幼いため、親が見極める必要がある。偏差値と受験日の兼ね合いだけで、A校とB校を併願するのでなく、校風や建学の精神が、家庭の教育方針と合っているか考えたい。

 大学入試制度が変わると、中等教育(中学・高校)の学びが変わるというが、神戸女学院の場合は、変わらず続けてきたことが、時代にマッチしたように思う。

 

 

読売オンライン

教育ジャーナリスト 水崎真智子

 

 

 

プロフィル
水崎真智子(みずさき・まちこ)
 教育ジャーナリスト・フリーランスの取材記者。教育、サイエンス、ビジネス領域を中心に、教育者、研究者、技術者、経営者などの人物インタビューを得意とする。読売新聞東京本社刊ムック「中学受験ガイド」にて受験記事などを執筆。 
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