多感な学生時代を男子校で過ごした雨月氏。コミュニケーションにおいて、異性と接する機会が異常に少なかった雨月氏は、時折、自分が「男子校出身」であることを痛感することがあるそうです。
こんにちは。外科医の雨月メッツェンバウム次郎です。
さて、最近同僚の医師と話していて気づいたことがあります。彼も私もいわゆる中高一貫の男子校の卒で、同じようにこじらせた独身男性なのですが。実は共通したことがありまして……
それは「男子校病」です。
中学生のころからずっと、思っていました。「この男子校というシステムはおかしい。不自然だ、非人間的だ」と。もちろん私もしっかりと男子校病に罹患しているわけです。
実は各界の著名人に男子校出身者がかなり多いの、ご存知ですか? 枚挙に暇がありませんが、自民党の谷垣幹事長は麻布高校、ソフトバンクの孫正義さん・ホリエモンは九州の久留米大附設といった具合です。全国で男子校って確か2%くらいしかないのですが、東大・京大といったところにはかなりの割合を占めているそう。「御三家」とか、とにかく受験実績がすごいところは大体が男子校もしくは女子校ですから。このページで見ても「東大合格者数」の上位7位まではすべて男子校と女子校。
東京大学は一学年3,144人で、ランキング10位までの男子校出身者の合計は684人。つまり少なくとも東大生の5人にひとり以上は男子校出身者なんです。
そして医者にも男子校出身者はかなり多いです。
ですけどね、私を含む彼ら男子校出身者は、女性とのコミュニケーションにおいて確実に病んでいる。こんなお話を今回はしたいと思います。
まず、どう病んでいるのか。結論から行きます。
①女性との友情は成立しない
②美女とはまともに話せない
③すぐ「自分に気があるのでは?」と勘違いする
だいたい、ちょっと考えれば13歳から18歳という、もっとも多感で、触れたらすぐに壊れてしまうような青春の時代を、異性とまったく接することなく過ごしてしまうなんておかしいです。私は怒っている。若干の人格形成にトラブったり、女性とのコミュニケーションがいびつになるのは目に見えている。ですから私は男子校というシステムには、情操教育の観点から激しく反対の立場です。
では、男子校病の病理をひもといて行きましょう。
ちなみに、今回は中高一貫の男子校出身者の病について書いています。高校だけ男子校だったとか、一年間だけ男クラ(男子クラスのこと)だったとかそういう生半可な人たちではありませんので。
①女性との友情は成立しない
よく、「男女間の友情は成立するか」ていう文脈があるじゃないですか。これ、はっきり言いますけど男子校出身者は女性との友情は絶対に成立しません。
我々男子校病患者は、「恋愛対象」or「俺の人生とはほぼ無関係」の2つのフォルダしか持っていません。つまり、恋の対象とするか、道路にあるポスターの中の女性と同じとするか、しか分類できないんです。これは本当に女性に失礼な話なのですが、実のところ我々も「女友達フォルダ」を持っていないことにかなり苦しんでいる。
例えば職場に50代の、愛嬌のある気さくな女性がいるとするじゃないですか。毎日お会いして、ちょこっと仕事でも絡むような。こういう人に対して、男子校病患者は悩みます。だって彼女を自分の中で分類しようとしても、さっきの2つのフォルダしかありませんから。
「うーむ、恋愛対象はちょっとなあ……頑張ればいけるかなあ、でもポスターと一緒に仕事はできないしなあ。」
苦しんだ挙句、「すごく限定されたシチュエーションでは恋愛対象」という風に「恋愛対象」フォルダに入れてしまいます。
しかもさらに悪いことに、この「フォルダ」を増やすのはかなりの激しい修行が必要で、よっぽど「9割女性の職場」とか「直属の上司がめちゃくちゃ怖い女性」とかでないと増やせない。やっぱりティーンエイジャーの時代にこの「女友達フォルダ」は作られるべきなんです。立派なコミュニケーション障害ですよ。
ただ一つ、例外的な男子校出身者がいます。「兄弟に女がいて、しかも男子校生の時に彼女がいた奴」です。これはおそらく男子校生の4.2%(筆者調べ)くらいでしょう。例外とはいえ、「女友達(仮)(ただしいつでも恋愛対象になりうる)」という非常に曖昧でちっちゃなフォルダを持つに過ぎません。
②美女とはまともに話せない
男子校病では、美女とはまともに話せません。ホリエモンさんもひどい男子校病患者さんですね、ここcakesでも連載していた「ゼロ」で
「共学の高校を出た友達は「そんなの、普通に話せばいいじゃん」と言うのだが、こっちにはその「普通」に話した経験がないのだ。彼らの言う「普通」の感覚が、すでにわからないのだ。」
と言ってました。うーん、よくわかるなあ。
普通の女性でもロクに話せないのに、美女になってしまったら、これはもう口説くどころの話じゃありません。目を見て、話そうとすると硬直しちゃうんです。もはやメデューサの頭状態です。
男子校出身でも東大とか慶應とか出て外資系金融とか入っちゃってしかもイケメンな奴とかたまにいます。そんな奴は実際のところ美女に対してはどうなのか。友人にいたので聞いてみましたが、やっぱりダメだそう。何十枚も鎧と仮面を着けて戦うけれど、結局は勝てないそうです。もしかしたら一生かも……男子校病は、イケメンをも凌駕する。
先ほどのホリエモンさんも、こう書いています。
「いまだから明かす話だが、僕は大人になってからもずっと、女の子にキョドっていた。たとえば、近鉄バファローズの買収騒動でメディアに大きく採り上げられた2004年あたりも、まだキョドっていた。メディアの前では強がっていたけど、プライベートで会う女の子には相変わらず挙動不審で、うまく話せなかった。
………
ようやく女の子と普通に接することができるようになったのは、30代の中盤になってからのこと。」
やれやれ、男子校病め……。
③すぐ「自分に気があるのでは?」と勘違いする
これも致命的な症状。
「彼女ではない女性からのボディータッチ」=「自分に気がある」という論理の飛躍が主な病理です。重症例では「彼女でない女性から話しかけられる」=「自分に気がある」。
ボディータッチされると、「どき。」となってしまう。そして心がざわついてしまう。情けないことに、握手だけだって「どき。」です。前回も書きましたが(「かわいくないのになぜあの子はモテるのか」)、頭をはたかれたりしたらもう瞬惚れ。
それから、これは本当に書きたくないのですが、女性から来たメールにハートが使われているとこれだけで有頂天です。女性って、実はかなりカジュアルにLINEなどでハートを使っているらしいじゃないですか。私はそれを知って愕然としました。これまでの多幸感はいったいなんだったのか。
以上3つをまとめると、「女性との距離感が全然わからない」というのがコアにあります。話ができぬほど自信がないのに、すぐ勘違いしてしまうほど自意識が過剰であるというこの美しい二律背反は、距離が掴めないからなのだと思います。
でも男子校病にもいいところはあって。
実は、男子校出身者にはけっこう紳士な人が多いんですよ。階段をエスコートしたり、歩く時は車道側を歩いたりといった何気ない気づかいが出来ます。なぜなら女性は未知で、きっと壊れやすくて傷つきやすい、お姫さまのような存在だと思っているから。夢見ている分、女性を夢見心地にさせるのも得意なんですよ。
一方、女子校出身者はどうだろうか。先日話題になったこの記事によると、「女子校出身者は誇り高きオッサンである」らしい。そして「男子校出身者はオバサンである」とある。でも私はそうは思いません。男子校病の人はあまりにプリミティブで繊細で傷つきやすい、ティンカーベルのように感じます。
いかがでしたか。
人生に一度きりしかない、あの眩しい青春の時代。
そんな輝く数年を、男子校という極めてグレーの環境で過ごした男性に出会ったら、ぜひ優しく握手してあげてくださいね。
cakes 2015.7.18